数学入試の不等式問題の解き方(数Ⅰ・数Ⅱ)
不等式の問題にはさまざまな種類があり、普通の不等式問題は頑張って解くだけなのですが、特に知識が必要な不等式がいくつかあります。下に代表的な代数的不等式と解析的不等式を示します。いずれも非負の項に対する関係です。
教科書でわずかに触れられているのが「シュワルツの不等式」と「チェビシェフの不等式」であり、これらは数式の計算で証明できる「代数的不等式」といえます。しかしこの他に、関数の振る舞いを見て証明する「イエンゼンの不等式」「ベルヌーイの不等式」や「ヤングの不等式」「ヘルダーの不等式」というのもよく入試には登場します。これらを知っているのと知らないのとでは、焦りと時間配分が大きく異なります。
ふつうの不等式
[B]公式必須の不等式問題(2009年東北大理系)
[B]不等式のやさしい問題(2015年阪大文理共通)
[C]2次方程式が与えられた不等式問題(2006年旭川医大)
判別式と対称性を利用する名問です。
[C]三角不等式を2次不等式で解く問題(2014年慈恵医大)
普通の不等式問題のキーポイントをほぼすべて含んだ名問です。
代表的な代数的不等式
以下の関係のうち、相加平均≧相乗平均の関係は教科書に登場しますが、多くの場合、シュワルツの不等式やチェビシェフの不等式は教科書に名前付きでは登場しません。しかしこれらを使わなければ解けない問題や、これらを使った方が簡単な問題は数多くあります。あるいはこれらの関係を下敷きに作成された問題もあります。したがってこれらの関係はすべて、入試準備には必須です。
シュワルツの不等式は証明なく使ってもいいと思いますが、チェビシェフの不等式の場合は微妙であり、これを使う問題では何かしらの誘導が付くと思います。
なお、不等号に等号が付く場合には、等号が成立する場合の条件を必ず確認してください。意外なところで等号成立条件が成立しないことがあり、間違いを正す好機にもなります。統合条件を確認しないと減点される恐れもあります。好例を示しておきます。
●相加平均≧相乗平均
「相加平均は相乗平均より大きい」というものです。この関係はすべての分野の問題で頻出します。項数によって係数などが変わる点に要注意。他はまだあまり調べていませんが、東大では超頻出の重要公式です。
あまり見慣れないですが、「相乗平均≧調和平均」という関係もあります。
低次の相加平均≧相乗平均の証明
3次くらいまでは証明は簡単ですが、n次の証明はかなり大変です。しかし出題されないとは断言できず、また他の問題を解くための参考になるので、紹介しておきます。つい最近、「新しい証明方法」が発見されたので、これも紹介します。また微分方程式を使って証明する方法もあり、これは誘導付きで出題されるかもしれません。
n次の相加平均≧相乗平均のさまざまな証明
[例題]
この問題は入試問題ですが、やさしい問題なので例題として解説します。
[入試問題]
[C]n次の相加平均≧相乗平均を証明する問題(2007年横浜市大)
[C]相加平均≧相乗平均の関係を使う問題(2002年名古屋大/文系)
[B]相加平均≧相乗平均の関係を使う問題(2012年神戸大)
[C]相加平均≧相乗平均を使う図形問題(2012年東大/文系)
[C]微分も使う不等式問題(2016年阪大理系)
[C]相加平均≧相乗平均だけでは解けない図形問題(2008年東大/理系)
[C]空間図形と不等式の問題(2010年日本医科大)
[C]相加平均≧相乗平均の関係を使う問題(2017年慶應大/総合政策)
[B]球に外接する円錐の最大表面積の問題(2014年一橋大)
[B]体積一定で表面積最小の直円柱の問題(2001年東京女子医大)
本問では途中でベルヌーイの不等式を利用します。
●シュワルツの不等式(またはコーシー・シュワルツの不等式)
これはベクトルの内積と大きさの関係を数式化したものです。シュワルツの不等式は「2乗和の積は積和の2乗より大きい」というものです。特に片方のベクトルが単位ベクトルの場合の不等式は意外性があり、よく出題されます。厄介なのは、この種の問題が、この不等式が思いつけば簡単に解けるのに、そうでない場合はとんでもなくむずかしい問題になる、ということです。この不等式は、確かにに教科書上で例題として示されてはいますが、名前も重要性も解説されていません。
こちらはn次でも証明は簡単です。しかし紹介する方法が思いつかなければハマります。
シュワルツの不等式の証明
[例題]
[入試問題]
[C]tan加法定理とシュワルツの不等式を使う問題(2013年東京医科歯科大)
[C]シュワルツの不等式が必須な問題(2012年東工大)
[C]空間図形と不等式の問題(2010年日本医科大)
●チェビシェフの不等式
チェビシェフの不等式は、「単調減少な2つの数列の積の平均は平均の積より大きい」というものです。高校数学などでは次の不等式を「チェビシェフの不等式」といいますが、実は「チェビシェフの和の不等式」というのが正しいようで、「チェビシェフの不等式」というと、確率論のもっと難しいものをいいます。
n項における証明は、余りに大変で、出会ったら避けましょう。京都大学 1986年、2010年度東北大理系後期=東京大学 1987年(同一問題)など、難関大学ではよく出題されていますが、相当準備をしておかない限り、制限時間内で解ける問題ではありません。筆者は悪問だと思います。
例題として、、2項・3項の場合を示しておきます。与えられた大小関係で不等号の向きが変わること、証明には項差を必ず利用すること、くらいは頭の隅に止めておきましょう。
[例題]
[入試問題]
[C]チェビシェフの不等式が使える問題(2010年東京医科歯科大/医)
●三角不等式
三角不等式というと2種類のものを思い出します。一般的に「三角関数を含んだ不等式」も三角不等式といいますがこれは入試用語にすぎず、他に「三角形の3辺の大きさの不等式」という意味の三角不等式
|a|+|b|≧|c|=|a+b|、|b|+|c|≧|a|=|b+c|、|c|+|a|≧|b|=|c+a|
があり、「三角形のいかなる2辺の長さの和も他辺の長さより大きい」という三角形の構成原則に根差しています。逆に、「三角形のいかなる辺の長さも他2辺の長さの差より大きい」ということから
|a|~|b|≦|c|=|a+b|、|b|~|c|≦|a|=|b+c|、|c|~|a|≦|b|=|c+a|
が成立します。
三角不等式は、表現からわかるようにすべての「ベクトル」に対して成立し、等号成立はベクトルの向きが一致するときです。
この不等式は、両辺を2乗すると、シュワルツの不等式に帰着されます。三角不等式の等号成立条件は若干複雑で、ベクトルの場合は向きが同じか反対か、実数の場合は符号が同じか逆かです。
[入試問題]
実数の三角不等式の等号成立条件は符号が同じかどうかです。
[B]実数に関する三角不等式の問題(2008年学習院大他)
[B]三角不等式が使えるベクトルの問題(2012年青山学院大)
この問題は2乗しないで解いて欲しい問題です。
[C]三角不等式が使える無理関数の問題(2009年信州大/医)
この問題では、無理関数の和の最小値を容易に求めることができます。
[C]三角不等式と無理数の問題(2017年阪大理系3)
代表的な解析的不等式
これらの不等式は、高校では学ばず、入試問題の中に隠れていて、出会うたびに苦労しながら解いていた部類の問題です。これらをあらかじめ学んでおけば、試験で出会っても先が見えて解きやすく、不安もなく挑戦できる、ぜひ学んでおきたい内容です。それぞれ少し解説が長いので、2つの頁に分けます。
●イェンゼンの不等式
わかってみれば内容は簡単な凸曲線の性質にもとづく不等式です。この不等式の発想を利用すると、むずかしい問題が簡単に解けることがあります。また、n次の相加平均≧相乗平均の証明にも利用できます。
[解説]イェンゼンの不等式
[C]n=2のイェンゼンの不等式の問題(2007年青山学院大/経済)
[C]sinαsinβsinγの最大値を求める問題(1999年京大理系後期)
[C]イェンゼンの不等式の問題(2014年横浜市大/医)
●ベルヌーイの不等式
さまざまな背景を持つ不等式であり、基本的な性質はn次曲線(n≧2)が(1,1)における接線より上の領域に存在することから報じています。過去に出題された入試問題は若干古いのですが、結果が簡単な不等式なので、さまざまな場面に登場する可能性があります。n次項を1次項で評価できるという、すさまじい効果のある不等式です。
[解説]ベルヌーイの不等式
本問では途中でベルヌーイの不等式を利用します。
●ヤングの不等式とヘルダーの不等式
イエンゼンの不等式から導かれる、半端な指数を含む不等式です。半端な指数を含む不等式の証明には対数が必要であり、試験場で出会ったら相当焦る不等式です。
[解説]ヤングの不等式とヘルダーの不等式